2006年07月29日

孔雀の剥製


孔雀の剥製.jpg14
 遙は、スゴイ、スゴイといちいち喚声をあげながら、点検するようにあちこち歩き回っている。
 茂は、ソファーに座り、一服しながらテレビでナイターを見ていた。巨人、広島戦をやっている。試合を一生懸命観ようとするが、目は画面を追っているのに、気持ちが集中出来ないのだ。何もこんな所まで来てナイターを観る必要はないだろう。そう思うからなのか。
 教師をしている遙が、まるで少女みたいにはしゃいでいる姿は、何とも異様だった。それにいちいちスゴイ、スゴイと喚声を上げる声が、大き過ぎた。茂には、遙のこの大きな声が、気に触って仕方ないのだ。その度に、ふっと嫌悪感が走るのを感じていた。
 そのうちに茂はまどろんでいた。

「ねえ、コーヒー入れたよ。飲まない?」
 いつの間にか、遙がコーヒーを沸かしていた。
「俺、寝てた?」
「うん、10分くらい、疲れてるのね」
 コーヒー豆独特の香ばしい香りが部屋に漂っている。遙が茂の側に寄り添っている。テーブルの上には、モノトーンの品のいいコーヒーカップが2個、湯気を上げている。
「ありがとう。頂くよ」
 茂は、これはなかなか気が利いている、と思った。
 思わず遙の肩に手を廻し、引き寄せた。感謝の表現だ。2人は身体を寄せ合ったままコーヒーを飲んだ。
「そろそろ帰ろうか」茂はいいムードを振り払うように言った。時計は10時を廻っていた。
「そうね、ごめんね、我がまま言って」
「ううん、いいよ。また今度ね」
 茂は、ごく自然に遙の唇に自分の唇を合わせた。せめてこれくらいはエチケットだろう、と考えたのだ。遙も何の抵抗もせず、目を閉じて応じた。あっという間に、エチケット儀式は終った。キスをしたのに、それ以上何の感情も沸かないのが茂には不思議だった。

 茂が眠っている間に、自動精算機もちゃんとチェックしていた遙は「わたし、料金払うね」と言うと、手早く、玄関にある精算機の前に行き、お金を支払った。お金は私が出すから、という約束を果たしたのだ。
 茂は、この娘はちゃんと気配りも出来るんだ、と思った。そして、自分が、遙のことをあらゆる角度からチェックしているのに気がついていた。
 遙に少しだけ申訳ないと思った。15へ

(上記小説は、カテゴリー短編小説〔喫茶店〕で連載中)
(写真は、川越の、食事処の床の間にあった孔雀の剥製。頭が小さいのにちょっとびっくり)

posted by hidamari at 17:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔喫茶店〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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