2006年08月06日

夏の田んぼ


夏の田んぼ.jpg18
 遙は六島で生まれ、高校まで地元で暮らした。ただ、大学は教師になるべく福岡の教育大学へ。4年間、親元を離れ都会暮しを経験し、再び六島に帰ってきた。
 父親は代々の船持ち漁業なのだが、一方では代々から市議会議員をしており、六島ではちょっとした名士である。 きょうだいは兄が1人いる。8歳上のその兄は福岡で教師をしていて、既に所帯を持っている。
 兄が福岡で就職した時から、「遙は六島で就職するんだよ」と、両親に言い続けられてきた。
 遙は、親の言いつけをきちんと守り、地元の小学校に就職した。
 母は、常々「好い人が出来たら、必ず家に連れて来るんだよ」と、言っている。
 両親も祖父母も、遙のことをたいへん可愛がり、ゆくゆくは跡取りにと思っているらしいのだ。
 遙は、それだけは納得出来ないでいた。

 子供の頃から、遙は、周りの大人に、別嬪さん別嬪さんと言われて育った。いつのまにか、自分でも容姿には自信を持つようになっていた。
 高校時代はけっこうラブレターももらった。
 悪い気はしなかったが、返事を書くのは、はしたないような気がして、いつも知らんぷりしていた。そのせいか、それ以上に発展することは1度もなかった。
 自分より目立たない友人に、男友達がいた。遙は自分になぜ男友達が出来ないのか、悩んだこともある。
 結局、消極的な態度が、返って高慢に見られたのかもしれない。
 大学時代にも、何回かデートはしても、気が付くといつの間にか消滅していた。
 全て、相手から言い寄られて、相手から去られるパターンだった。
 「君は喋らないと美人なのに」と、言われたこともある。
 自己紹介で名前を言っただけで、「あなた、出身は六島でしょう?」と、指摘された時はさすがにショックだった。六島独特のイントネーションのせいだ。このコンプレックスは、遙をいよいよ消極的にさせた。
 しかし、遙にとって、男の子が次々に自分の元を去って行ったことは、それほど落ち込むことではなかった。それは、彼らがそれほど好きな相手ではなかったからだった。

 しかし、茂に対しては、今まで男性に持った感情とは違っている。
 初めて、もっと親しくなりたい、と思った男性なのだ。
 茂の心が分からないのが、苦しくてたまらない。
 自分のことを、真剣に思ってくれているのか、遙には今一つ掴めないのだ。
 今までのように、また、茂の方から去っていくのでは…。
 不安な気持ちばかりが、どんどん広がっていった。19へ 

(上記小説は、カテゴリー短編小説〔喫茶店〕で連載中)
(写真は、プールへ行く道路から撮ったもの。どこまでも続く稲の緑を見たら、なぜかホッとします。日本人はやはり米が原点です)

posted by hidamari at 16:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔喫茶店〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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