2006年08月14日

小説〔喫茶店〕

22
 俺はこんなに子供が好きだったか?
 改めて思う。
 そうではない。大人になってからは思い出すことはなかったのに、子供の頃のやり切れなかった寂しい気持ちが、翔太を見て、突然蘇ってきたのだ。
 茂の両親は、現在も紳士服の仕立て及び販売をしている。茂は子供の頃、3歳下の妹のめんどうを見ながら、両親が仕事を終えて帰って来るのを待っていたのだ。母屋とお店は別棟になっていた。
 急ぎの仕事が入ると、両親は夜遅くまで仕事をした。そんな日は、お惣菜を買ってきて、妹と2人で夕食をとることも度々あったのだ。
 それは、とても辛くて寂しい思い出だった。
 しかし、中学、高校生くらいになると、むしろなに1つ干渉されないのがとても有り難かった。
 その頃、友人たちが、親の干渉がうるさいと嘆いていたのを横で聞きながら、茂は、自分に全幅の信頼を寄せてくれている両親に、心から感謝していたのだ。
 そんな具合だったので、突然子供の頃の感傷が蘇り、翔太のことを放っておけない自分が、今ここにいることが驚きだった。
 俺、やはり子供の頃、寂しかったのだ。それを未だに忘れていなかったのだ。

「おい、翔太くん、ペットボトル空だろ?あそこの回収箱に入れてきな」
 翔太はぱっと目を覚ました。
「うん」と頷くと、走って捨てにいった。
「ママすぐに来るよ、俺一緒に待っててあげるよ」
 翔太は嬉しそうに頷いた。
「赤ちゃんいるんだろ?」
「うん、リョウちゃんだよ、藤川のオバちゃんの所に預けてるの」
「リョウっていうんだ」
「ううん、亮太」
「そう、翔太に亮太か、いい名前だね」と、茂は翔太の頭をなでながら、なかなか可愛い子供だと翔太の顔をつくづく眺めてしまった。
 眉毛がまっすぐ伸びて、1本1本の毛が曲なく行儀よく生えているのがとても凛々しい。目元がすっきりと涼しげなのは、みどりによく似ていた。それに夏なのに、ゆで卵をむいたように色が白かった。でも決して病的ではなく、清潔感が漂っているのが、男の目から見ても、なんと可愛らしい男の子なんだろう、と思えるのだ。
「赤ちゃん好きか?」
「うん、リョウちゃんが大きくなったら、サッカーやるんだ」と、ボールを蹴る真似をする。
 茂は、ふっと、俺もこんな子供が欲しいな、と思った。

「翔太ごめん、さあ帰ろう」と、言いながらみどりが階段から降りてきた。23へ

(上記小説は、カテゴリー短編小説〔喫茶店〕で連載中)

posted by hidamari at 12:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔喫茶店〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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