2006年08月26日

小説・喫茶店

28
 茂とみどりは、茂がみどりの長男にジュースを買い与えたりしたこともあったが、その後も会話らしい会話をしたことはない。ただ、朝夕、茂が事務所に立ち寄る際、挨拶だけは欠かしたことがなかった。
 ドアを開けて部屋に入ると、茂はなぜかみどりの席を確認するのが癖になっていた。そんな時不思議なことにみどりとよく目が合った。
 偶然だろうか?もしかしたら、ドアを開けて自分が入ってくるのを、みどりも待っているのではなかろうか?その証拠にいつもにっこり笑ってくれた。
 毎日このアイコンタクトを続けていると、みどりの存在が徐々に、まるで、いつも自分の帰りを待ってくれている優しい母のように思えてきたのである。言葉を交わさなくとも、みどりの笑顔は、茂にとって一瞬でもほっと出来るオアシスのような存在だった。

 運転席の茂と助手席のみどりは共に雄弁だった。1時間余りの行程を、茂もみどりもどこをどう通り過ぎて来たのか覚えていなかった。ずっと昔からの知り合いだったように、会話が湧き水のようにあふれ出てきた。
 子供のこと、仕事のこと、何の関係もない茂に、どうして無防備に話すことが出来るのだろう。みどりはふと冷静になると、急に恥ずかしくなった。
 しかし、茂も、自分の生い立ち、仕事に対する思い、趣味など、そんなことまで言わなくていいよ、と思うくらい話をしてくれる。ホントに自然に2人は話に夢中になっていた。
 会話は、目的地である、合併前は松の江役場だった六島市松の江支所へ到着するまで、途切れることはなかったのである。29へ

(上記小説は、カテゴリー短編小説〔喫茶店〕で連載中)

posted by hidamari at 21:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔喫茶店〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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