2006年08月30日

小説・喫茶店

30
 お昼の12時半頃茂は松の江支所に戻ってきた。
 ロビーの椅子に座っているみどりを見つけると、茂は離れた所から目で合図した。
 みどりは頷いて、茂の後を追った。
 これって何だか恋人同士みたいだとみどりは思った。
 なぜなら、茂は目で合図しただけで後は振り向きもせず、さっさと1人車へと向かったからだ。
 みどりが付いて来ていると信じきっているようだった。その馴れ馴れしい動作が、嬉しいようで、腹立たしいようで、でも後ろめたい気持ちが1番強いのは、みどりにやましい気持ちがあったからかもしれない。
 出張先でたまたま一緒に食事するのは、よくあること。別にどうってことはないのだ。意識するのがおかしいのではないか。みどりは苦笑いするしかなかった。
 みどりが車に乗り込むと、茂はホッとしたようだった。
「村木さんに食事誘われたけど、断ったんだ。顔を合わすとまずいかなと思って……。ごめんね」
「えっ、何が…、ちっとも」
「いや、ちょっと急がせたから。……僕も今日の仕事もう終っちゃった。これから帰ろう」
「えっ、うそ!無理したんじゃ?…」
「そんなことない、帰り道に食堂があるから、そこで食事しよう」
 普段、無口だとばかり思っていた茂が、とても雄弁だったこと、クールでシャイでいつもよそよそしいと思っていたのに、とても優しかったことに、みどりはホントに驚いていた。今日だって、私のために、早めに仕事を終らせてくれたのではなかろうか。みどりはふっとそんな思い上がったことを考えた。でもまさかそんなことは在りえない。すぐ打ち消した。31へ

(上記小説は、カテゴリー短編小説〔喫茶店〕で連載中)
posted by hidamari at 23:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔喫茶店〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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