2006年09月13日

小説・喫茶店

37
 待ち合わせ時間は6時半。今夜はさすがにマイカーではなくタクシーを利用した。クリスマスだもの、お酒を飲まないわけにはいかないでしょう、と思ったのだ。
 どんなにゆっくりしようと思ってもどうしても行動が早くなる遙だった。マロニエの前に着き、時計を見るとまだ6時を過ぎたばかりだ。今日も早過ぎると思った。待つのは慣れっこだった。
 ただ、今夜は飲み屋街の通りがあまりにも華やいでいた。
 ここは、六島に1軒ある映画館も大きなキャバレーも全て集中している唯一の歓楽街なのだ。道路にまで飾られたイルミネーションに遙の心は子供のようにウキウキしていた。
 昔ほどではないがなかなか賑わっている。少しは景気もよくなったのだろう。
 遙はマロニエを通り過ぎて、その街の明かりに吸い込まれて行った。クリスマスの雰囲気を少し味わってみたくなったのだ。
 この時期、お客といえば、ボーナスをもらった公務員だらけだった。学校の先生もいるだろう。
 遙は、ふと知り合いに、会いそうな気がした。
 誰にも会わないうちに退き返そうとした時、向こうから歩いてくる男性に目が引きつけられた。茂に似ていると思ったのだ。なんと、それはやはり茂だった。
 えっ、うそ、小久保さん!遙は嬉しくて心臓が止まりそうだった。全く予期していなかったからか、こんなところで偶然会えたのがホントに嬉しかったのだ。
 しかし、次の瞬間、遙は路地に隠れていた。
 こともあろうに茂は横に小柄な可愛い女性を連れていたのだ。
 でもなぜ隠れたりしたのか。とっさのリアクションだった。冷静になると何も遙が隠れることはなかったのだ。
 今さら出て行くのは変だった。2人の後を付けるような形になってしまった。
 心の中に、俄かにさざ波が絶ち始めるのを、遙は抑えることが出来なかった。38へ

(上記小説は、カテゴリー短編小説〔喫茶店〕で連載中)
posted by hidamari at 21:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔喫茶店〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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