2006年09月17日

小説・喫茶店

39
 遙はハイになったり落ち込んだりする自分の気持ちを持て余していた。
 茂の行動で一喜一憂するのは、もういやだった。今日は待ちに待ったイブではないか。
 楽しまなければ。つまらないことでへそを曲げて勝手に落ち込むのは愚の骨頂だ。楽しく楽しく。呪文のように心の中で繰り返した。
 それでも心のどこかで、茂の心を掴めないのがじれったくて、切なかった。
 
“蒼い館”というキャバレーは、娯楽施設が入っている集合ビルの3階にあった。
 普段並べられているテーブルとソファーが片付けられると、そこは広々としたダンスホールそのものだった。天井にはミラーボールが輝いている。
 その夜、会費5000円のダンスパーティーは盛況だった。
 六島は漁業の町でもある。普段の飲み屋街は、漁師は大事な客層である。特に船員たちが遠洋漁業から帰還した暁にはいっせいに飲み屋街へと繰り出す。彼らは金を惜しみなく使うので飲み屋街もとたんに活気付くのである。
 しかし、その夜の客層は比較的大人しく主にダンスを楽しむために集まっていた。
 フロアーはそんな若者の男女で沸き返っている。六島にもこんなに若者がいたんだ、と遙はホントに驚いた。
 それぞれがアベックで来ているのか、たいていペアで踊っていた。
 複数で参加しているグループは、相手を替えて踊っていたが、グループの中でのことだった。
 遙は最初から最後まで、ずっと茂と踊ることが出来た。曲はどんどん変わっていった。それに合わせてステップを踏み続けることは、一種のスポーツのようなものだ。時々休んでお酒を飲むこともあったが、たいてい2人は踊っていた。茂も心から楽しんでいると遙は確信していた。初めて心が通じているように思えた。遙にとってはめったにない満たされたひと時だったのである。40へ

(上記小説は、カテゴリー短編小説〔喫茶店〕で連載中)

posted by hidamari at 16:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔喫茶店〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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