2006年09月23日

小説・喫茶店

42
 熊本の事務所で今年最後の業務打ち合わせ会議に出席した後、少し時間が出来た茂はぶらりと熊本の繁華街に出た。夜は小料理屋での飲み会に招かれていた。事務所の先輩たちが、茂のために急きょ集まってくれるというのだ。
 宴席はあまり好きではないが、これも仕事の内と割り切っている。茂は役人になってこういう所はちゃんと受け入れていた。
 夜の飲み会までは、2時間ほどの空き時間だった。
 熊本の街は殆んど知らないといってよい。手っ取り早くデパートへ行った。
 まず頭に最初に浮かんだのは実家の母へのおみやげを買うことだった。何か身につける物をと思ったのだ。
 六島の土産といえば海産物であるが、それは、遙が干魚の物詰め合わせを持たせてくれた。
 遙の家は漁業をやっているてまえ、手に入りやすいこともあるが、やはり遙がよく気がつくしっかり者の証しだろう。遙は干物以外にも、六島の銘菓を職場用として持たせてくれた。まるで妻がするような遙の気配りに対して、今回は現金なことだがホントに有り難かった。
 それなのに、遙におみやげを買うことを、なかなか思いつかなかった。
 それどころか、母へスカーフを買った後、通りかかったおもちゃ売り場で、ヒーロー物のグッズや仮面ライダーなどに群がっている男の子を見て、翔太に買っていったら喜ぶだろうなあ、と思ったのだ。
 しかし、やはりそこまでするのは不自然だと思った。なぜなら、翔太の後に母親のみどりがちらついたからだ。翔太に対する純粋な思いではなかった。
 みどりのことを思い出し、後ろめたく感じた時にやっと、そうだ、遙にこそ何か買っていかなければならないという思いに辿り着いたのだった。
 思い出してよかった、と思った。セーターのお礼もしていなかったのだ。
 スカーフ売り場に引き返し、遙に似合いそうなピンクのスカーフを1枚買い求めた。
 思い切って、母のより高価な物にした。自分の中でのせめてもの罪滅ぼしだった。43へ

(上記小説は、カテゴリー短編小説〔喫茶店〕で連載中)

posted by hidamari at 22:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔喫茶店〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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