2006年09月27日

小説・喫茶店

44へ 
 遙はただルンルン気分で迎えに行った訳ではない。
 ホントは茂といつも連絡を取り合っていたかった。それなのに、遙が、いつ帰るの?と聞いても、分からない、と教えてもらえなかった。それが何を意味するか、遙は痛いほどよく分かっていた。遙は茂にとってそれくらいの存在なのだ。当然お正月休みの間、メール交換もなかった。
 それが分かっていてもどうしても諦めることが出来ない。押せば押すほど相手には煙たがれることも分かっている。それなのに自分の気持ちをコントロール出来なかった。
 実は、遙は昨日もこの時刻にターミナルに来ていた。4日から仕事始めなので、3日の夜には帰ってくると推察したのだ。
 そういうことがあっての今日だった。どういう顔で迎えようかと迷っているうちに、出難くなった。後から身体を押して驚かせたのは、1種の照れ隠しだった。
 危惧していたように、迎えに行ったことを、茂はさして喜んでいる風ではなかった。
 でも遙には嬉しいことがあった。
 茂が遙のためにおみやげを買ってきてくれたことだ。
 人に物をあげることが好きな遙は、当然茂にも何かことある毎にプレゼントをしてきた。決して見返りを期待しているわけではない。
 ただ、心の片隅に、茂からプレゼントを貰ってみたいと、いつも思っていたことは否めない。
 もしかしたら、今回、お菓子くらいは買ってくるかも、とは思っていた。
 ところがおみやげは、遙が思いもしなかったエルメスのピンクのスカーフだった。身に付けるものだ。しかも高そう。信じられないことだった。
 報われた気持ちがした。これだけで1年くらいは穏やかに暮らせそうだった。それほど遙にとって、嬉しい茂からの初めてのプレゼントだったのだ。45へ

(上記小説は、カテゴリー短編小説〔喫茶店〕で連載中)
posted by hidamari at 14:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔喫茶店〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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