2006年09月29日

小説・喫茶店

45
 茂がみどりに会っていない期間は、遙の場合とそう変わりはなかったのだが、みどりに対してはとても長いこと会っていないような気がした。遙に会えるのは当然のような気がした。しかし、みどりの顔を見た時、ああ今年も彼女の顔がこんなに近くに見られるんだと、安堵感にも似たある感動を覚えたのだ。
 役所では、4日に、各部所毎でも1年の初めのけじめとして、一同を会してちょっとした御用始めの式が行われている。これによって、年の初めの挨拶を個々に交わす手間が省けるのである。
 茂はむろんこの日にいなかった。1日遅れで年始めの挨拶を個々にして廻るのは、若い茂にとっては煩わしいことだったのだが、1つだけいいこともあった。みどりに正々 堂々と話しが出来ることだった。
 みどりと言葉を交わすのは、暮れに飲み屋街でばったり会った時以来だった。

 あの日、茂は、仕事先から直接、遙との待ち合わせ先のマロニエに行くところだった。
 一方みどりは、子供を保育所から連れて帰り、帰宅した夫にその子供たちを託して、仲間より一足遅れで忘年会会場へ向かう途中だった。
 2人が街中でばったり会ったことが、とても新鮮だった。その偶然が特別な絆のようで、茂は親しみが倍増したような気がしたのだ。
 マロニエに着くまでホントにあっという間の時間だった。何を話したか覚えていないが、心がずっとウキウキしていたことは確かだった。

「お帰りなさい。故郷はどうでした?ご両親はお元気だった?」
「はい、お陰様で家族は皆元気でした」
 妙によそよそしいありきたりの挨拶だったが、茂にとっては家族のことを思いやってくれる特別な言葉に感じ取っていた。
 何気ないこんな会話を、みどりと交わしている状態が、茂はとても幸せな瞬間だったのである。46へ

(上記小説は、カテゴリー短編小説〔喫茶店〕で連載中)

posted by hidamari at 11:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔喫茶店〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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