2006年10月09日

小説・喫茶店

50
 茂はみどりにちゃんと話しが出来るチャンスを覗っていたが、遠くからアイコンタクトは出来るものの、なかなかゆっくり話すことは出来ずにいた。
 しかし、3月も10日を過ぎた時、やっとチャンスが巡ってきた。
 その日、茂は現場から夕方6時過ぎに帰って、駐車場で公用車を洗っていた。
 その時、みどりが退庁すべくちょうど駐車場へやって来たのだ。
 茂は、今しかないとみどりに近づいていった。
「あら、お帰りなさい。遅いのに洗車まで大変ね」
「ただいま、まあ、貧乏暇なしですから…」
「…じゃあ、お先に」みどりは、洗車の手を止めてわざわざ近づいてきた茂をいぶかりながらも、車のドアに手をやった。
「あのぉ、ちょっといいですか?」
「えっ、何?」
「実はちょっと保坂さんに話しがあるんで、…明日の昼休み、時間とってもらえないかと…、昼食一緒にどうですか?」茂は、頭の中で何回も練習していた通りのことを言った。
「…私に、…いったい何かしら」みどりは、一瞬戸惑った顔をした。目を丸くして、唇を噛みしめた。急な申し出に、いろいろなことを想定して迷っているのだろう。沈黙の時間が流れた。
「あのぉ、大したことないんで、昼食と言っても喫茶店で、…ほら、この間、前を通ったでしょ、マロニエ。あそこ…、軽食しかないし」
「それはいいんだけど…、でもまあいいわ、じゃあ明日12時10分頃マロニエへ行きます」
 みどりは決断したようにきっぱりと言った。ふっ切れたように明るいいつもの笑顔で茂の目を見ると、2回軽く頷いた。
「じゃあね」と言うと、みどりは何事もなかったように車に乗り込んだ。
 茂はみどりが乗ったカローラに手を振りながら、心の中で、ヤッホー、と叫んだ。51へ

(上記小説は、カテゴリー短編小説〔喫茶店〕で連載中)

posted by hidamari at 16:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔喫茶店〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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