2006年10月17日

小説・喫茶店

54
「そうだよねー、転勤かあ、私も来年で六島勤務3年になるの。育休が1年あったけど、だいたい離島勤務は3年で本土へ帰れるっていうから。…わたし、国家公務員は2年くらいだろうって思ってた。だから、小久保さんもきっと転勤は来年だと自分で勝手に決めていた。バカだよね」
「僕だって、少なくとも9月までは大丈夫と思っていたんだよ。でも前々から六島駐在は9月で廃止とは決っていたんだ。それが早まっただけなの」
 茂とみどりの会話の口調は未だに定着していない。丁寧な言葉を使う時もあれば、フレンドリーな口調になることもある。
 実際、茂は言葉使いで戸惑うことがある。
 みどりは茂より年上で、また彼女でもない。対等な口調ではまずいのでは、と思うのだ。
 しかし、今までのことを思い出すと、話しを続けるているうちに、2人は、いつのまにか打ち解けた俗にいうため口になっているのだ。
 みどりの方は茂に対して、職場では必ず丁寧な言葉で話しかける。もっともみどりは、誰に対しても職場では丁寧な言葉を使っているのだが。

 茂は今、ひどく感激していた。
 みどりが「小久保さんの転勤は来年だと決めていた。バカだよね」と自然に発した落胆したような言葉にだった。
 その言葉で十分みどりの心情が伝わってきたのだ。
 それに反応して自分が言い訳したのも自然だった。
 これはもう2人の心が通じていた証拠だった。
 それがお互い分かった時、2人の間に気まずい空気が流れた。
 照れくさい気持ちを通り越して、茂の心に、みどりに対する愛おしさが、沸々と湧いてきた。
 彼女の身体を抱きしめたい衝動にかられた。もし、すぐ側にみどりの身体があったら感情のおもむくままに抱きすくめただろう。
 幸か不幸か、みどりの身体はテーブルの向こうだった。55へ

(上記小説は、カテゴリー短編小説〔喫茶店〕で連載中)

posted by hidamari at 13:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔喫茶店〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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