2006年10月19日

小説・喫茶店

55
 みどりもその時感じていた。
 2人の間にただならぬ危険な香りが漂っていることを。
 怖いと思った。
 つい、うっかり本音を出してしまったことで、茂まで巻き込んだのではないか。
 これはマズイ、
 早くこの空気を一掃しなければ。
 何か話さなければ、と思えば思うほど話題が思いつかなかった。
 ふと気がつくと、テーブルの上にランチが並んでいるではないか。
 いつの間に来たのだろう。
 ウエートレスが並べるのを逐一見ていたような気もする。
 コンソメスープの入ったマグカップ、ミニハンバーグ、ナポリタンのパスタ、ポテトサラダ、キャベツのせん切りなどが少しずつ盛られたお皿、クロワッサンとフランスパンがカットされたものが載ったお皿、それらが2セット、テーブルの上に、所狭しと並べられていた。
 ウエートレスが慣れた手つきで並べる様が蘇ってきた。
 我に返った、みどりは慌てて
「さあ、頂きましょう」と茂を促し、「頂きます」と丁寧に手をあわせた。
 それから2人はもくもくと食事に専念した。
 しかし、みどりは胸が一杯で食事は喉に通らなかった。 どれを食べても味がしないのだ。味を感じるのは舌ではなくどうやら脳らしい。その脳が食事に全く集中出来ていないのを感じていた。
 みどりの舌は上の空状態だった。
「コーヒーが美味しいから」
 茂がすまなさそうに言った。茂はきれいにたいらげてしまった。
 彼は冷静なのだ、と感心すると同時に、みどりはどこかちょっと不満だった。不公平な感じがしたのだ。
「ごめんなさい。決して不味いんじゃないのよ。胸が一杯で……」と言いながら、みどりは、こんなこと言っちゃいけないと思い、最後の言葉を慌てて飲み込んだ。
 茂はテーブルの隅に置いてあった呼び鈴を押してウエートレスを呼び、コーヒーをオーダーした。56へ

(上記小説は、カテゴリー短編小説〔喫茶店〕で連載中)

posted by hidamari at 21:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔喫茶店〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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