2006年10月25日

小説・喫茶店

58
 茂はみどりが既婚者であることに気安さを感じて、近づいていった。少なくとも初めのうちはそうだった。
 しかし、過去、茂が付き合った既婚者の女性に対する思いとは、みどりに対する思いは、気持ちが少し違っていた。
 それは、みどりを恋愛の対象にして見ていたわけではなかったことだ。
 知人のいない離島で、子育て、仕事と、一生懸命頑張っている彼女の姿が、茂にはとても輝いて見えた。そんな健気な彼女を応援せずにはいられなかったのだ。
 肉親にエールを送るような感じだった。
 みどりも茂に対して、常に優しい態度で接してくれた。
 組織の違う中で孤立している茂は、部屋の中では疎外感を感じる時もある。そんな時いつでも温かい態度で接してくれるみどりは、オアシスのような存在だった。
 そんな母親を想うような気持ちが、いつの間にか男女の情愛に変わっていたのだ。

 茂は今、すっきりしていた。
 みどりに断られたことは、とても辛いことだが、どこかでホッとしていた。
 真面目で家庭思いの彼女だからこそ惹かれたのかもしれない。
 これ以上、自分が深入りすることは、良くないことは分かっていた。男の弱さとエゴなのか、それでも誘わずにはいられなかった。もし、彼女が応じていたら、茂は男として引き返せないだろう。そうなったら行き着く所まで行き、純粋なみどりとだからこそ、悲惨な結末になりかねない。
 今までの既婚女性とは、軽い乗りで付き合い、軽い乗りで別れた。
 彼女はそんな女性ではなかった。
 男女としてではなく、人間として付き合えたことが、茂の中で、ますますみどりを素晴らしい女性に膨らませていったのかもしれない。
 茂は、今素直に、みどりに出会えたことに、心の中から感謝していた。59へ

(上記小説は、カテゴリー短編小説〔喫茶店〕で連載中)

posted by hidamari at 21:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔喫茶店〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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