2006年10月27日

小説・喫茶店

59
 このところ、茂は、夢にうなされて、夜中に目が覚める日々を送っていた。
 熊と格闘していたり、暴れ牛に追いかけられていたりするのだ。その度に「ギャアー」と、叫んだ自分の声に驚いて飛び起きてしまう。
 思い当たることは、遙のことしかない。
 自分では何も気にしていないつもりだった。しかし、どこかで、遙に申訳ない、と思っているのかもしれない。
 遙には「転勤になった。今まで有難う。元気で、じゃあさようなら」と、言って別れるつもりでいる。
 遙はどう対応するだろう?「そう、じゃあこれでおしまいね。さようなら、元気で」
 これですんなり納得してくれるのだろうか。泣いてすがられたらどうしよう。
 過去の女性は都会育ちのドライな性格だった。イーブンな付き合いと割り切っていたのか、後腐れは何もなかった。
 遙も今時の進歩的な女性ではあるが、土地柄というのもある。結婚してと迫られないとも限らないのだ。
 夢でうなされるのは、その状況を形を変えて体験しているのかもしれない。
 それは恐怖に思っているということなのか。
 しかし、そうかといって、遙と結婚しようとは思わない。
 遙に会い、転勤のことを知らせ、彼女と穏やかな別れをしたかった。このことがクリアになれば、茂は枕を高くして眠れるだろうと勝手なことを思っていた。

 3月24日、県の教職員及び職員の人事異動が発表された。その日の夕方、茂と遙はマロニエの、いつものテーブルで向き合っていた。60へ

(上記小説は、カテゴリー短編小説〔喫茶店〕で連載中)

posted by hidamari at 21:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔喫茶店〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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