2006年11月08日

小説・喫茶店

65
 茂は、みどりとお昼に会う約束を取り付けた後、すぐ出張した。挨拶回りが2〜3箇所残っていたのだ。挨拶回りは思ったより早くトントンと片づいてしまった。茂は事務所へは戻らず、そのままマロニエへ直行した。
 お昼までは20分程時間があった。
 前回みどりと座った、入口の側の観葉植物で仕切られた席を取った。
 一服しようとタバコを取り出した時、茂の目の前に、突然、遙の姿が浮かび上がった。遙と会う時いつも座ったテーブルで、1人で居る悲しそうな遙の姿だった。胸に、締め付けられるような痛みが走った。茂は思わず立ち上がった。奥のフロアーを覗いて見たが、遙が居る筈はなかった。
 遙のことはすっかり忘れていると思っていた。
 やはり、心のどこかに遙がまだ残っているのだろうか。けっこう自分も傷ついているのだ、女性を悲しませることも、きっと大きなストレスになるのだ、と茂は思った。

 みどりはなかなか現れない。
 ウエートレスが「何になさいますか?」と紋切り型に2度目のオーダーを取りにきた。
「コーヒー。それからあと1人来ますからそれから注文します」
 何気ないウエートレスとの、このやりとりが好きだった。
 この喫茶店も今日でお別れだ、と思うと茂は胸に迫るものを感じるのだった。
 ドアベルがカランコロンと鳴った。
 みどりが息を弾ませながら入ってきた。

                       《完》

(上記小説は、カテゴリー短編小説〔喫茶店〕で連載してきましたが今日で完結しました。短編のつもりがまたまた長くなってしまいました)

posted by hidamari at 22:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔喫茶店〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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