2007年10月14日

小説・優しい背中

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 四方をビルに囲まれている2階のオフィスにも、ビルのちょっとした隙間から朝日は差し込んできた。
 その長い斜光は、絵里子の机の上まで届いていた。絵里子はいつものように誰よりも早く出勤してオフィス内を掃除した。一通り掃除を終え、社員にお茶を入れた。始業時刻の9時まであと15分という頃になって、やっとぞろぞろ社員が出勤してくる。
 4月1日、絵里子はいつものように自分の席で、自分が入れたお茶をすすった。暖かい光の中で、普通では見えないほこりが白く舞っていた。
 大城絵里子が大学を卒業してこの大手通販会社に入社したのは、20年も前のことである。総合職として、総務に配置されテキパキと仕事をこなしてきた。その間、結婚もし、出産もした。今では、取引先の業者の間にも深く信頼されている。人間関係で取引が出来上がっている自負もあった。
 ところが、日本経済が市場重視に転換され始めてから、会社の経営方針が徐々に変わってきた。会社は、利益を順調に上げているにも関わらず、人件費を切り詰めるようになった。
 電話で注文を受けるコールセンターは、既に、全ての支社を統一して、中国の大連に移動していた。
 それまでいた日本社員はリストラされ、社員は全て現地採用に切り替わった。
 大幅なコスト削減になった。
 本社は、リストラの鉾先を、総務や経理、営業部門にも向けていた。
 福岡支社も例外ではない。
 絵里子は、今やっている自分の仕事を、誰にでもすぐ出来るとは思いたくなかった。
 しかし、今日4月1日から支社長が変わる。前の支社長は関連会社に出向になり、後任が本社から就任することになっているのだ。
 前支社長の話では、彼より一回り若い気鋭の切れ者だというのだ。しかも、事務部門のリストラを遂行する使命も負っているという。
 絵里子たち社員は身構えざるを得なかった。2へ

(上記は、カテゴリー〈小説・優しい背中〉で連載します)

posted by hidamari at 23:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・優しい背中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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