2007年11月01日

小説・優しい背中

10
 さっきから、男性レーンで背の高い男性が泳いでいたことは分かっていた。ゴーグルをかけていたので、それが柴谷だとは気がつかなかったのだ。
 オフィスで見る柴谷とはあまりにも違って見えた。浅黒い精悍な身体もそうだが、全体的にとても若々しかったというより、若かったのだ。彼はまだ39歳なのだ、と絵里子は実感していた。
 「びっくりしたあー」
 絵里子は動揺を隠し切れなかった。
 「火曜日ではなかったのですか? それに水泳を?」声は上ずった。心底恥ずかしかった。
 「ごめん、驚いた! 君を見つけて僕も驚いた。普通は火曜日にジムの方で器械を使ってやっているんだ。たまたま今日は時間があったんで、泳ぎにきたの」
 柴谷も偶然を驚いている風だった。
 「そうですか。でもこんなかっこうで会うとちょっと恥ずかしいですね」
 絵里子は胸に手を当てながら素直に言った。オフィスでの自分とは違うテンションの自分に絵里子は戸惑った。
 「ちっとも恥ずかしいとは思わないけど。…君、クロールうまいね」
 「いやだ、見ていたんですか」
 「いや、うまく泳いでいるなあって、つい目が行ったんだ。最初君だと気がつかなかった。よく見ると、もしや君じゃないかって」
 柴谷と絵里子は自然にベンチへ向かい、座って話していた。11へ

(上記は〈小説・優しい背中〉で連載中)

posted by hidamari at 21:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・優しい背中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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