2007年11月09日

小説・優しい背中

14
 販売促進会議に向けて、絵里子はこのところ資料作りに追われていた。
 その日、絵里子は帰り時間を気にしながらも、けりがつくところまでと、パソコンを打ち続けていた。気がつくと、社員は誰も残っていなかった。
 柴谷は昨日から東京本社へ出張している。今日までの日程なので、直接自宅へ帰るのだろう。オフィスへは顔を出さなかった。
 柴谷のいない職場は、何かもの足りない気もするが、絵里子には、それが返ってリラックスでき、その分、仕事に打ち込むことが出来た。柴谷に特別な感情を持つまでは、いつもこんな風にリラックスして仕事が出来ていたのに、と絵里子はその頃のことを懐かしく思い出す。だからと言って、どちらがいいかというと、不自由でも、やはり柴谷のことを常に意識している方だ、とはっきり思うのだった。

 やっと、仕事の目途がついた時は、午後7時を回っていた。
 その時、オフィスのドアが開いた。
 「君だったの。てっきり閉まっていると思って来たら、電気がついていたから…、誰だろうと思っていたよ。ご苦労さん」
 と、言いながら入ってきたのは柴谷だった。アタッシュケースだけを下げていた。
 絵里子は、不意の侵入者に息が止まるほど驚いた。それが、オフィスに戻るとは思っていなかった柴谷だったことが、2度の驚きだった。
 しかし、ふっと、このシチュエーション、天からの恵みのような気がした。
 胸の鼓動が、ドックンドックンと、外に聞えるように波打ち始めた。15へ

(上記は〈小説・優しい背中〉で連載中)

posted by hidamari at 23:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・優しい背中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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