2007年11月13日

小説・優しい背中

16
 絵里子はドアが開く度に、今度こそは、と胸を躍らせて入口へ目をやった。その都度裏切られた。待ち合わせの6時は15分過ぎていた。待たせるのは悪いと思い、15分前にこの喫茶室に入っていた。かれこれ30分待っていることになる。
 外から見るより室内は広々としており、テーブル毎に個室のしゃれた喫茶室だった。個室の入口はオープンになっているので、室内をある程度見渡すことも出来るが、夫々の個室の中は近くまで行かないと見ることは出来ないようになっている。
 絵里子は、柴谷が自分を探すのが容易でないと思い、入口のすぐ側の個室のテーブルに座っていた。そこからは、 入口を見ることが出来た。
 時計が6時30分を指した時、恵理子はやっと、もしかしたら、すっぽかされたのでは、という思いを持つに至った。携帯の番号を聞くほどの間柄にはまだなっていない。連絡のしようがなかった。昼間会社に出ていない絵里子には、今日の会社の様子は分からない。何かのっぴきならない社用が出来ているとも考えられた。
 朝から気合を入れて家事をこなし、夕食の準備も怠り無くやり、後を娘に託して、家を出てきていた。
 「ママ、何か嬉しそう」と言う里美に、
 「企画がうまく通ったので、みなで慰労の飲み会をするのよ、嬉しいに決ってるでしょう」と、何とか取り繕って娘のするどい視線をかわした。そんな苦労も水の泡となるのだ。
 早く帰るのもしゃくにさわる。映画でも観て帰るしかないなあ、としょうもないことを考えていた。
 お気に入りの、ベージュのシルクのワンピースが、急にみすぼらしく感じた。絵里子にしては、化粧も念入りにし、精一杯おしゃれしていたのである。17へ

(上記は〈小説・優しい背中〉で連載中)

posted by hidamari at 23:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・優しい背中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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