2007年11月15日

小説・優しい背中

17
 普通は入口にあるレジが、この喫茶室は室内の中央に位置している。その中央のフロアーは円形で、それを取り囲むように個室があった。その個室の入口はオープンになっているので、見ようと思えば個室のテーブルを見ることが出来た。
 絵里子は、その中央のレジへつかつかと歩いて行った。
「待ち合わせしていた人が、この後来るようなことがあったら、……」
 そこまで言って、ふっと横に目が行った。空気に導かれて目が行ったとしか言いようがない。
 なんと、目が行った先に居たのは柴谷だった。柴谷が、もくもくとパスタらしきものを、ほおばっているではないか。おいしそうなワインも。いったいどういうこと?
「あら、支社長、こんな所に…」
 絵里子は思わずそう言った。
 レジの女性は事態が分かったのか「良かったですね」と、にっこり笑った。
 1度は諦めた柴谷とのデートだったので、その時の安堵感はひとしおだった。すっかり舞い上がった状態で柴谷の横に駆け寄っていた。
 「なんで、こんな所に? 私、入口の側のテーブルでずっと待っていたんですよ」
 「じゃあ僕の方が先に来たんだね。君、もう来ないかと思って、食事して帰ろうとしていた」
 柴谷は何ごともないように応えた。
 「そうだったのですか。私より先に来られるとは思ってもみなかったので…、探そうとしなかった私が悪かったのですね」
 「君、何か食べる?」
 「いえ、食事は家で済ませてきました。今コーヒー飲んでいたの」
 もちろん、夕食はとっているはずなかったが、胸が一杯で食事どころではなかった。
 そこへウエートレスが入ってきた。
 「何かご注文ありますか?」
 「いえ、すみません」
 「やはり、あなた方がお互いの待ち合わせの相手だったんですね。そうではないかと思っていたのですが、聞くに聞けなくて」
 と、申訳なさそうな面持ち半分、興味本位の面持ち半分の感じで言った。
 絵里子は、言ってくれればよかったのに、と思わないではなかったが、そんなおせっかいおかしいでしょう、という感じもあったので、「ふふふん」と笑って済ました。18へ

(上記は〈小説・優しい背中〉で連載中)

posted by hidamari at 22:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・優しい背中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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