2007年11月27日

小説・優しい背中

23
 歓楽街を抜けて橋を渡ると、急に辺りは暗くなった。夜ふけの商店街はひときわ静まりかえっていて、1人で歩くのは恐いくらいだった。しかし、2人だとその静けさが返って気分を高揚させた。駐車場までは10分も歩けば届く。
 絵里子は、解放された小鳥のように、柴田に腕を絡ませたりして、スキップせんばかりにはしゃいでいる。きっと、年齢を忘れているのだろう。
 柴谷は焦っていた。このまま、終わりにすべきか、この先進むべきか。
 柴谷は、もともと酒は強くない。既に酔っている自覚はあるが、思考力は十分残っていた。
 ダンスは出来ないと言いながら、絵里子は、チークダンスを何の臆することなく受け入れた。これは、完全に男に身を任せてもいいというアピールだろう。いや、もともと、最初から、彼女にはその意思があって、自分を誘ってきたのだ。それが分かって乗ってしまったことを、柴谷は今になって少し後悔していた。
 身辺を整理しようと思っていた矢先に、またやっかいなことを抱えるのはうんざりだと分かっているのに、どうしても乗らずにはいられない、いい加減な性格だった。
 そして、ここまで来たら、行くしかないか、何とかなるだろうと思ってしまうのが、柴谷のいつもの悪い癖だった。
 絵里子は今まで付き合ったことのない女性のタイプだ。知的で、自立性があって、男性に妙に媚びをうるようなことをしない、と思っていた。年上だが、それを意識させないかわいさもある。仕事も出来る。
 多いに興味があったが、人妻だということで、柴谷の中では、恋愛対象としては鼻から考えていなかった。
 それゆえ、あくまで、部下として、接していたつもりだった。
 柴谷は、ポリシーとして、人妻だけにはずっと手を出さないできていたのである。
 ただ、どこかに、甘い誘惑があったのも事実だった。しかも、絵里子はとてもアクティブだった。
 ビルの谷間に小さな公園があった。公園の外灯でその周辺は明るかった。
 絵里子が急に立ち止まって、柴谷の腕を引っ張った。
 「ねえー、次に会う時は、2人っきりでずっと過ごしたい。ドッキングしたいもん」
 外灯の、薄明かりの下の絵里子は、妖艶で、その目は潤んで見えた。柴谷は思わず絵里子を抱きしめていた。24へ

(上記は〈小説・優しい背中〉で連載中)

posted by hidamari at 23:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・優しい背中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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