2007年12月01日

小説・優しい背中

25
 ホテルの中では、柴谷はそれなりに優しかったが、絵里子は、自分の柴谷に対する熱い想いに比べると、微妙に温度差があることを、彼の言葉の端々に感じ取っていた。
 「僕たち、こうなっちゃった以上、思いっきり楽しまなくっちゃね」
 と言いながら、柴谷は
 「こっちへおいで」と、絵里子をバスルームへ誘った。
 絵里子は、その時、柴谷が脱いだスーツをハンガーに掛けてロッカーにしまっていた。次に、床に脱ぎ捨てられたトランクスをたたもうとして、しばしためらっていた。そんなことをする、所帯じみた自分がいやだったこともあるが、やはりそこまでしては駄目だろう、という後ろめたい気持ちが強かったのである。考えた末、ソファーにそれとなくかけておいた。
 そのあと絵里子はスリップになり、ゆっくり柴谷が待っているバスルームへ入った。
 絵里子には、何もかも始めての経験だった。しかし、そんなことはおくびにも出さず、柴谷が成すがままに平然と従った。
 どんなに不埒で恥ずかしいことも、意外と平気で出来ることが自分でも驚きだった。
 気がつくと部屋の中は、バスルームばかりはなく、天井も壁も至る所に鏡が施されていた。
 こんなのが、自宅の部屋だったらずいぶんと落ち着かないだろうな、とそんなことがふっと、絵里子の頭をよぎっていった。26へ

(上記は〈小説・優しい背中〉で連載中)

posted by hidamari at 22:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・優しい背中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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