2007年12月16日

小説・優しい背中

32
 手足が無意識に運転はしていたが、頭の中は上の空状態だった。はっとして我に戻る。集中、集中と自分に言い聞かせる。
 こんな所で事故を起したらどうなるのだろう。柴谷に会うことが出来なくなる。日頃は何でもない運転がむしょうに心もとなく感じた。こちこちに緊張しているのが分かった。ハンドルをあまりにもしっかり握り過ぎて、じっとりと手が汗ばんでいた。
 行き交う車は殆んど家路へと向かっているのだろう。絵里子はその家路とは反対の方向へ、押し寄せる車の波に立ち向かうように車を走らせた。柴谷を求めていた。もうすぐ彼の胸に抱かれるのだ。それまで何ごとも起こらないよう、それだけを祈っていた。
 しかしそんなことはもちろん思過ごしで、実際は何事もなく大成ビルに到着した。5階建て大成ビルの2階に絵里子の会社ルソンがある。
 駐車場に車を止めた絵里子は、電話をすることなくオフィスへと向かった。電話する時間がもどかしかったのだ。
 大成ビルにはクリニック、化粧品会社、証券会社等が入っている。午後8時になろうとしている今の時刻には、殆んどの会社は終業していたが、2〜3の会社にまだ残っている人がいるのか、エレベーターはまだ始動している。しかし絵里子は当然階段を使った。2階ということもあるが、エレベーターはどこか心配だった。突然動かなくなったら、ここまできて柴谷に会うことが出来なくなる。そんなくだらない不安だった。とにかく、柴谷に会えるまでは、何もかもスムーズに行かせたかったのである。33へ

(上記は〈小説・優しい背中〉で連載中)

posted by hidamari at 21:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・優しい背中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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