2007年12月23日

小説・優しい背中

35
 博多湾に面した海辺の中華レストランに、柴谷と絵里子はいた。
 「何が食べたい?」と聞かれ、絵里子は即座に中華と応えた。
 それなら、この海辺のレストランがいいと、柴谷が案内してくれたお店だった。
 ウイークデーの夜8時過ぎなのに、けっこう混んでいるところをみると、人気のお店なのだろう。
 夜の博多港が見渡せた。
 お腹はけっこう空いていたものの、このロマンティックな景色を見たとたん、胸が一杯になり食欲はぱったり無くなっていた。
 しかも、メニューの料理は、美味しそうだがどれもボリュームがあり、今にもニンニクの匂いがしそうだった。
 「美味しそうだけど、きっと匂いますよね」と、絵里子は困惑した面持ちで言った。
 「いいよいいよ、2人とも食べれば匂いなんて気にならないから。好きなもの食べたら」と、柴谷は言った。
 絵里子は、柴谷のその思いがけない気さくなことばに、すーっと心が和むのを感じた。
 柴谷のことがすごく近しい人に感じた。それはとても好感の持てるものだった。
 「じゃあ、しゅうまいとスープ、それにチャーハン、1皿ずつ取って、一緒に頂きます?」と、調子に乗って言った。
 「それでいいよ」
 柴谷は、何の異論も言わず、見守るような眼差しで同意した。
 考えてみれば、絵里子は、柴谷がどんな食べ物が好きで、日頃どんなものを食べているのか何もしらないのだ。
 2人して、レストランで食事をしていること事態、絵里子にとって、夢見心地だったのである。
 ホテルに行くことは、ある意味、以外と簡単に出来ることかもしれない。しかし、日常の生活に入り込むことは、そうとう心が通じ合わないと出来ることではないのだ。
 それは、夜の職業女性が、職場では客とどんなに親しくしても、昼間プライベートでは全く別人であるのに通じている。
 絵里子はせっかくの中華料理も、柴谷が自分の目の前にいることに胸が押し潰されて、殆んど喉に通らなかったのである。36へ

(上記は〈小説・優しい背中〉で連載中)

posted by hidamari at 23:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・優しい背中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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