2007年12月25日

小説・優しい背中

36
 車は海浜道路を走っていた。
 所々に人家や商店、飲食店もあるが、夜の海岸線はさすがに車の往来は少なかった。レストランを出てからは、柴谷がハンドルを握っていた。
 「20分位かかるけどいいだろう?」と言った。
 「ハイ、もちろん」絵里子は応えた。
 それっきり会話は途絶えた。絵里子は柴谷にいっときでも不愉快な思いをさせたくなかった。頭の中で気の利いた話題をあれこれ吟味してみるものの、あせればあせるほど話題が思いつかない。幸運にもカーラジオが適当な間で音楽を流していた。
 ホテルは、道路端にあった。
 西側が玄界灘、東側の山の斜面に沿って、コテージ風の1戸建てが20軒ほど段々に並んでいた。
 夕方ならおそらく綺麗なサンセットが見られるのだろう。そんな地形に位置したホテルだった。
 ラブホテルといっても、1歩中に入ると、普通の別荘のような感覚である。キッチンのテーブルの上には花も飾ってあり、家庭的な雰囲気さえ漂っている。つい、エプロンをさがしてしまいそうな錯覚に陥る絵里子だった。
 ここまで来る車の中では、どこかで、やはり抑えているに違いない罪の意識が、ふっと頭をもたげてきて、ずるずると気分が沈んでいった。そのメランコリーが、ここに入ったとたん嘘のように晴れていた。
 むしろ、陽気になりすぎて、甘いしっとりしたムードはどこかへ飛んでいた。
 そんな絵里子の気持ちを引き戻すように、
 「こっちへおいで」と柴谷がベッドから呼んだ。37へ

(上記は〈小説・優しい背中〉で連載中)

posted by hidamari at 23:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・優しい背中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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