2007年12月27日

小説・優しい背中

37
 柴谷は既に服を着て、放心状態という感じでベッドの横に腰掛けていた。柴谷はタバコを健康のために止めている。今むしょうにタバコが吸いたかった。
 絵里子は、それを察していた。
 コーヒーメーカーには、いつでも飲むことが出来るように、挽くだけにした豆が用意されている。
 絵里子は2人分の熱いコーヒーを入れた。
 柴谷に「どうぞ」と言ってカップを渡すと、当然のようにぴったりと寄り添って座った。
 コーヒーの香り、立ち上る湯気、傍らに愛を確かめ合った柴谷の身体の温もり、絵里子は身も心も充実していた。
 飲み終わったカップを応接台に載せると、絵里子は再び柴谷に寄り添った。
 そして、柴谷の大きな左手を我が物のように、自分の両手で包み込んだ。
 この風景、小説の画面で見た覚えがあった。
 その『雪国』の中で駒子がしたことを、絵里子は咄嗟に真似ていた。大きな柴谷の手の指1本1本を自分の口の中に、次々にくわえていった。柴谷は何も言わずに絵里子の成すがままにさせてくれた。
 絵里子は、これは1夜のアバンチュールなのだと思った。
 「ねー、今度はいつ?」と思い切り甘えて聞いた。
 「うん?わからない。もう会わないかも」と、柴谷は何ごともないように言った。
 そして、
 「さあー、口紅をひき直して。そろそろ帰ろう」と言った。38へ

(上記は〈小説・優しい背中〉で連載中)

posted by hidamari at 22:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・優しい背中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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