2008年01月04日

小説・優しい背中

39
 人の気配で頭を上げると、一目ではっと息を呑むような、いわゆる美形の女性が絵里子のデスクの方へ近づいてきた。年の頃は30代後半だろうか。
 「あの、私、笹本と申します。本社から参りました。支社長いらっしゃいますか?」
 そういえば、本社からのメールに確かに笹本真澄という名前が書いてあった。てっきり男性だと思い込んでいたのだ。
 「はあー」
 絵里子は動揺していた。その動揺を悟られないように、ひときわ冷静を装った。
 「おります。どうぞこちらへ」
 支社長室へテキパキとした態度で案内した。
 「やあー、いらっしゃい。元気そうだねー」
 柴谷は、とても親しげに笹本に応対した。笹本も
 「お久しぶりです。柴谷さんもお元気そうで」と、妙に打ち解けた態度をとっている。
 2人はいったいどんな関係だろう。柴谷が女子社員とこれほど親しげに喋っているのを見たことがなかった。しかも相手はこんなに美人。
 アルバイトの女の子にコーヒーを出すように指示すると、絵里子は自分のデスクに戻った。
 その後、書類に目を通していても、気持ちは全く空ろだった。
 隣で一部始終を見ていたのだろうか。平林啓太が絵里子の心を見透かしたように、
「大城さん、心配でしょう。あんなに綺麗な人が支社長と2人きりで部屋にいるのは」と言った。
「そうね、少しはね、だってあんなに美人なんだもの。支社長も嬉しいよね」
 と、その場は軽く受け流したものの、平林の鋭い指摘に心中は多いにドギマギしていたのである。
 平林は、日頃、絵里子の隣の席にいて、絵里子が支社長に恋慕の思いを持っていることを、少なからず感じ取っていたのかもしれない。それもまずいことだった。
 しかし、今はそれどころではなかった。
 絵里子はさっきから瞼の下がピクピク動くのが気になっていた。
 これがゼラシーというものなのか。40へ

(上記は〈小説・優しい背中〉で連載中)

posted by hidamari at 22:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・優しい背中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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