2008年01月07日

小説・優しい背中

40
 あっという間に年末になっていた。
 絵里子の自分に対する想いは消えることなく、ますます深まりつつあると、柴谷は感じていた。社員はおそらく気付いていないだろう。その点、安心だった。絵里子は社内では、馴れ馴れしくすることも、仕事以外の話をすることも決してしなかったからである。
 絵里子とは結局、今までに3回関係を持った。
 3回目はほんの偶然だった。
 晩秋の土曜の午後、ハッピースポーツクラブの帰りだった。
 柴谷は新車に買い替えたばっかりだった。ダークブルーの高級車カムリはやはり自慢である。やたら乗り心地を確かめたい時期でもあった。
 「あら、支社長、こんにちは。今日はジムの日だったんですか?」
 「君も…」
 「ええ、でも支社長は確か火曜日では?」
 「うん、そうだけど、今日は特別だよ。…新車買ったんだ。だから試乗も兼ねて…」
 「えっ、ホントですか。いいなあ」
 「見る?」
 「いいんですか、ぜひ見たいです」
 柴谷は、その時は単に絵里子に自慢の新車を見せたかっただけだった。絵里子にだけでなく誰彼となく見せたかった。たまたま、そこにいたのが絵里子だったという偶然だった。
 駐車場へ行き、そのカムリを見ると、絵里子は大袈裟なほどはしゃいでみせた。
 「わぁーステキな車ですね。ちょっと助手席へ乗ってみていいですか?」
 「いいよ、何ならちょっとドライブしてみる?」
 「えっ、いいんですかぁー、嬉しい!」と、絵里子は子供のように喜んだ。
 最初はその辺を一回りしようと思っていた。
 絵里子を乗せて快適に運転をしているうちに、もともとあった高速を走らせたいという気持ちが、急に頭をもたげてきたのである。えーいとばかりそのまま高速に乗っていた。41へ

(上記は〈小説・優しい背中〉で連載中)

posted by hidamari at 22:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・優しい背中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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