2008年01月12日

小説・優しい背中

42
 柴谷は、この12月に、東京本社で開かれた支社長会議に出席した。
 その会議で、4月に打ち出された社員1割削減を、2割削減に増やすように指示される。
 柴谷には、頭の痛い仕事だった。
 4月就任時には、15人の社員1割、即ち1〜2人なら何とかなるだろうと思っていた。それが2割となると、はっきり3人減らさなければならないのだ。
 4月以来ずっと、全社員の勤務態度、成績を見てきた。 社員、1人1人を見ると、けっこう皆頑張っている。
 ただ1人だけ気になっている男がいた。販売部岡田征二54歳だった。精悍な顔と、ものおじしない気骨の持ち主である。なかなかいい男なのだが、気にかかるのは会社をよく休むことだった。彼の手腕で売上が伸びる場合もある。しかし、いざという時、欠勤していることで、仕事に支障をきたしていた。これは組織にとっては、何よりあってはならないことだった。
 ところが、その岡田自身が、12月になってすぐ、
「来年の4月に自分で事業を起こしたいと準備している。3月には退社したいが、それまでちょいちょい会社を休むことがあるだろう。それが許されないなら、1月に退社してもかまわない」と、柴谷に申し出てきたのである。
 願ってもないことだった。ただ、柴谷はなるだけ岡田の希望を叶えてやりたかった。
 「そうですか。3月までは我が社のために力を貸して下さい。休暇は有給がある限り取ってもかまいません」と答えた。
 「有難うございます。最後までちゃんと頑張ります」と、嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
 今1人、柴谷にはもくろみがあった。
 経理部の若手、南田陽一である。
 彼は一橋大学出身、将来の幹部候補生である。本社に引き上げてもらうべく段取りを取っていた。
 その2人で人員削減の仕事は済むと考えていたのである。
 それが、もう1人何とかしなければならなかった。43へ

(上記は〈小説・優しい背中〉で連載中)

posted by hidamari at 23:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・優しい背中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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