2008年01月15日

小説・優しい背中

43
 柴谷は子供が出来てから、クリスマスは、仕事がない限り必ず家族で過ごす。
 家族は柴谷にとってかけがえのない存在なのだ。家庭を第1に考えているスタンスは、外に好きな女がいてもゆるぎないことだった。
 ある日仕事上で柴谷は、期せずして絵里子と2人だけになったことがあった。支社長室だった。
 彼女から「支社長、クリスマスの夜はどうされるんですか?」と、聞かれた。
 普通に「家族と過ごすよ」と答えた。
 「そうでしょうね」と絵里子も、何ごともないように言った。
 会社の掲示板には、忘年会が27日だということを、12月早々から張り出されていた。
 クリスマスの過ごし方を聞かれて2〜3日経っていただろうか。
 柴谷は、お手洗いから出てきたところを、背後から急に「支社長」と、呼び止められた。絵里子だった。
 柴谷は驚いたが、「ああー君か」とだけ言った。
 絵里子は、
 「これ、後で読んで下さい」
 と言って、いきなり柴谷の背広のポケットになにやら突っ込んだ。
 柴谷が「何?…」と聞き返す間もなく、絵里子は足早にそこを立ち去った。
 女学生みたいなことをするやつだ、と思った。
 それは1枚の手紙を折畳んで結んだものだった。内心、複雑な気持ちだった。
 というのは、その時柴谷は、絵里子の処遇に対して重大な決断をしていたからだ。
 もう1人社員を減らすとすれば、どうしても総務企画からしかなかったのである。
 となれば、年齢、家族事情、仕事の内容、特に待遇の面からは、1番厚遇されている絵里子に、どうしても目を向けざるをえないのである。
 それに、好都合なことに、博多港倉庫の管理部長である広木から、広木は前支社長である、彼は絵里子を高く買っていたというプレミアムつきでもある、その彼が、ここにきて英語の出来る正社員を博多港倉庫に配置してくれるように、柴谷に依頼してきたのだ。
 絵里子が最適人である。
 柴谷はそう確信した。
 ただそうなれば、勤務、給料体系が変わってしまう。当然彼女の給料は減額されるだろう。
 倉庫は、現在、正社員は管理部長1人で、後は全てパートやアルバイトで形成されている職場なのだ。
 今まで恵理子が歩んできた表舞台ではなくなる。
 はたして、絵里子は受け入れてくれるのだろうか。
 柴谷にとっても辛い決断なのに、当の絵里子には、相当堪えることは間違いないことだった。44へ

(上記は〈小説・優しい背中〉で連載中)

posted by hidamari at 22:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・優しい背中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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