2008年01月17日

小説・優しい背中

44
 手紙には、「忘年会の後会って下さい。二次会が終ってからでいいです。喫茶店スワンで待っています。時間は、二次会終了後でどうでしょうか」と、書いてあった。
 絵里子は、手紙を書くことが好きな女である。
 2回目のデートの時、彼女は
 「話したいことがいっぱいあったのに、いざこうして向き合うと、緊張して、何も思い出せないの」と、言った。
 深く考えたわけではなかった。とっさに、
 「そんな時は、紙に書いてくればいいんだよ」と言ってしまった。
 それからだった。絵里子が、ことあるごとに柴谷に手紙を渡すようになったのは。
 柴谷は、忘備メモをつけたらいいと言っただけで、ラブレターみたいなものは、みじんも念頭にはなかった。
 本人を前にしてラブレターを読まされることは変な具合だった。最後に必ず「読み終わったら破って捨てて下さい」と書き添えてある。そのままその手紙は、彼女に返した。それを彼女は勢いよく破いて捨てた。
 会社でも、隙を見て、何度か手紙を渡された。絵里子もやはり普通の女なのか。大胆なことをここまでどうどうとされると、やはり引いてしまう。
 中に書いてあることは大したことではない。自分がどんなに柴谷を愛しているか、毎日どんなに幸せか、とかいうようなことだった。
 しかし、それを読むたびに柴谷は狼狽した。
 ただ、絵里子は文章も字もとても上手だった。柴谷は、そのラブレターを、まるで小説を読むように堪能したに過ぎなかった。
 当然、返事を書くどころか、感想を言ったこともない。ただ、迷惑とだけはどうしても言えなかった。45へ

(上記は〈小説・優しい背中〉で連載中) 

posted by hidamari at 21:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・優しい背中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック