2008年01月20日

小説・優しい背中

45
 12月27日、二次会の席。かなり広いキャバレーのワンボックス、柴谷と絵里子は斜向かいの席に座っていた。
 柴谷は、もともと酒は強くない。しかもすぐに顔が赤くなる。宴会の席では、社員をねぎらって率先してお酌して回った。その度に返杯される。たいていは、飲む真似で済ませたが、それでもいつの間にか、大分飲まされた。
 酔ってないつもりでも、二次会では相当メーターが上がっていた。
 絵里子が酔っているのか、それとも全く飲んでいないのか、柴谷には全く分からなかった。もし飲んでいるとすれば、車は運転出来ないだろう。
 この後、手紙に書いてあった喫茶店へ本当に行くつもりなのか。
 気になった柴谷は、さり気なく絵里子の表情を視線で追った。絵里子は、くったくのない笑顔で、隣に座っている若い男性社員と戯れている。
 それを見ると、彼女も酔っていると思った。きっと手紙のことは忘れているだろう。
 やれやれそんなものか、という気持ちもいくらかあったが、正直なところは、『助かった、これからデートなんてまっぴらだ』と、いう気持ちの方が強かった。
 それからは、絵里子のことは一切気にせず、自分のペースでその場を楽しむことが出来た。
 11時になろうという時、二次会はお開きになった。
 出口へいっせいに皆が押し寄せた。いつの間に来たのか、柴谷の横に絵里子が擦り寄っていた。ああ、と思う間もなく、彼女は
「先に行って待っていますから、必ず来て下さい」と、耳打ちした。
 出口は混んでいたし、薄暗かった。他に気付くものはいなかったはずだ。
 それにしても、絵里子の動作は機敏で要領がよかった。
 なぜなら、一方的にそれだけ言うと、柴谷にイエス、ノーを言わせる間を与えず、風のようにその場からいなくなっていたから。46へ

(上記は〈小説・優しい背中〉で連載中)

posted by hidamari at 22:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・優しい背中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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