2008年01月24日

小説・優しい背中

47
 絵里子は、あまり愛されてもいないのに、こんなに無理をしてまで、どうして柴谷との密会を続けているのだろう、と思うことがある。
 決してセックスが好きなわけではない。
 それにそっちの方は泰三と至極うまくいっている。
 夫の泰三とは、もともと相性がいいのか長年培って得たものなのか、短い時間ですぐエクスタシーに達し、それが長く長く続く。泰三とはセックスにおいても最高の関係と絵里子は思っている。
 それに比べると、柴谷は頂点に達するまでに、長い時間を要した。
 初めての時、絵里子は自分の体に魅力がないせいだと、申訳ない気持ちでいっぱいだった。
 「ごめんなさい、貧弱な身体で」と、言って謝ったりもした。
 柴谷は「そうじゃないんだ、俺いつもエンジンがかかるの、時間がかかるんだ」と言った。
 絵里子は―支社長職で仕事のストレスが溜まっているんだ―と思った。
 柴谷とのセックスは、泰三のそれと違い、むしろとても疲れることだったのである。
 しかも、絵里子は柴谷に、ネクタイ、ベルト、ワインと、プレゼントも贈っていた。それに対して、1度もお返しをもらったことがないどころか、お礼も言ってもらったことがない。ネクタイは締めているのさえ、見たことがないのだ。
 そんなワンサイドの恋愛を絵里子はしているのである。
 絵里子自身、柴谷のどこがこんなに好きなのだろう、と考えてしまうのでる。
 思い当たることは、身分が自分よりずっと上の人だからかもしれない。普通ではありえない手の届かない人との禁断の恋だからこそ、燃えるのだろう。だからこそ、一方的でも、ちっとも悔しくない、見返りも何もいらないのだ。
 憧れの人と2人きりでいるという真実、身体を寄せ合っているという真実だけで、蜜の味がするのかもしれない。そうとしか考えられなかった。48へ

(上記は〈小説・優しい背中〉で連載中)

posted by hidamari at 21:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・優しい背中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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