2008年01月26日

小説・優しい背中

48
 バレンタインデーだからといって、商業ペースに乗って、男性にチョコレートを送るバカげた習慣は、いつかはすたれるだろう、と絵里子はずっと思っていた。
 娘の里美にも、「男の子に普段お世話になっているわけではないでしょう。女の子の方からあげる必要ないよ」と、言って暗に阻止してきた。
 「そうだよね。女子は損だよ」と、口ではそう言っているが、里美が内緒でチョコを買っているのを、絵里子は知っていた。
 絵里子は、バレンタインデーには批判的だったにもかかわらず、今回、その日が近づくに連れて、胸がわくわくするのを禁じえなかった。
 そして、その日のために、わざわざめったに行かないデパートへ出向いたのである。
 1階のフロアーは、まさにバレンタインデー一色だった。
 その特設売り場には、豊富な種類のチョコが色とりどりに飾られ、山積みされている。
 絵里子は、あれこれ物色しながら、なんともいえない気恥ずかしさと、若やいだ気分を味わっていた。
 愛する男性に想いを伝える手段があるのを、使わない手はないだろう。絵里子はただひたすら柴谷のことを想って、チョコレートを選んだ。
 びっくりするほど高価だったが、ちっとも、もったいないとは、思わなかった。
 家族で食べるため、ちょっと安めの物も買った。
 娘の里美は、それを見て、きっと「どういう風の吹きまわし?ママ、バレンタインデー反対派だったんじゃなかった?」と、言うかもしれない。
 その時は「たまたまデパートの前を通ったら、賑わっていたので覗いてみたの。普通こんな豊富なチョコないでしょう! めずらしいのがあったから、ついつい買ってしまったのよ」と、言おうと考えていた。
 実際、そんなことを思ったのも事実だったからだ。49へ

(上記は〈小説・優しい背中〉で連載中)

posted by hidamari at 21:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・優しい背中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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