2008年02月15日

小説・優しい背中

56
 昨日まで家族以上に近しい人だったルソン福岡支社の仲間たちと、4月になったとたんに無縁になるのが、覚悟していたこととはいえ、絵里子にはやはり虚しいことだった。
 我が家同然のように知り尽くしたオフィスで、一喜一憂したいろいろな場面の情景が、走馬灯のように浮かんでは消えた。
 特に柴谷と仕事を通して接した最後の1年間、また朝の斜光の中での儀式等、全てがパノラマになって、遠くにかすんでいった。
 この1年間は、絵里子の人生の中でも1番彩られたものだっただけに、何もかもが愛しかった。
 もうあの幸せだった時間は2度と戻らないのだ。
 そう思うと、改めて、1日のうちに何もかも変わった現実を思い知らされた。
 新しい職場の博多港倉庫は、今までの職場と雰囲気がまるで違っていた。
 それはデパートと小売店ほどの違いだった。
 事務所には広木管理部長の他に、中年の男性社員、若い女子社員、バイトの女の子の、4人がいるだけの小じんまりしたものだった。
 ただ倉庫の方には、たくさんの派遣社員が働いている。事務所は、彼らを使って品物を受け入れたり、発送したりする仕事をするのである。
 最初の1週間、絵里子は、仕事の概略を把握することに明け暮れた。
 慣れない職場は、その空気を吸うだけでも疲れるものだった。夜は泥のように眠るだけだった。
 眠る前に柴谷のことがふと頭をよぎるが、幸か不幸か、疲れきった身体は、男に恋焦がれる気持ちより、睡魔の方が強かったのである。57へ

(上記は〈小説・優しい背中〉で連載中)

posted by hidamari at 22:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・優しい背中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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