2008年02月18日

小説・優しい背中

57
 毎日、あっという間に1日が過ぎていった。
 最初は、180度変わった仕事内容に戸惑うこともあったが、それも慣れるに従ってそれなりに充実感を得られるようになっていた。
 絵里子がそれほど落ち込まずに毎日を笑顔で過ごすことが出来たのは、心の奥底に密やかな楽しみを温めていたこともある。
 それは送別会の宴会の席で、柴谷に渡した手紙に書いた内容だった。
 [4月第3週目の木曜日、夜6時頃、喫茶店スワンで待っています。ご用がなかったら来て下さい]というものだった。
 あの日、柴谷から「別れよう」と、宣告されたが、一方的な言い方に絵里子は納得がいかなかった。それに柴谷も本気で言っているとはどうしても思えなかった。なぜなら、柴谷が突然心変わりしたとは思えなかったし、絵里子が彼に嫌われるようなことをした覚えもない。
 絵里子だって、いつまでも柴谷に迷惑をかけるつもりはなかった。
 恋焦がれる気持もいつかは自然消滅し、やがては思い出に変わっていくことだろう。
 でも、今は無理だった。絵里子にとって、柴谷の存在は生きる糧だった。またいつか会えると思うと、それを楽しみに、いきいきと暮らしていけそうな気がしていた。
 柴谷からその後、何の連絡もない。ということは、彼はきっと都合をつけて会いにきてくれるのだ。
 スワンにきっと来てくれると思った。
 木曜日が近づくにつれて、絵里子は徐々に落ち着かなくなっていた。
 そして、やっとその木曜日がやってきた。
 運よくその日、絵里子は早出、早退の日だった。
 午後3時、絵里子は、高鳴る気持を抑えて、退社しようとしていた。1度自宅へ戻り、夕食の準備をするつもりだった。それから出かけても、待ち合わせにはゆっくり間に合った。58へ

(上記は〈小説・優しい背中〉で連載中)
 

posted by hidamari at 22:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・優しい背中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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