2008年02月28日

児童小説・つぶらなひとみ

蕗の董(フキノトウ)
 おかあさんが、道端の土手に芽生えたフキノトウを籠にいっぱい摘んできました。
 フキノトウは、若草色の額に、白っぽい蕾がたくさん固まっていて、卵のような形をしています。
 今夜はきっとてんぷらだと、美鈴ちゃんは思いました。
 美鈴ちゃんは、実はフキノトウがあまり好きではありません。
 実は昨年もおかあさんは、フキノトウのてんぷらを作りました。
 その時食べた味が急に蘇ってきました。
 お口の中にフワ―と広がるほろ苦さが、美鈴ちゃんにはちょっと苦手だったのです。
 でもお母さんは、フキノトウが大好きみたいなのです。
 「今日は、フキノトウのてんぷらだよ」と、嬉しそうに言いました。
 「えっ!それだけなの?」と美鈴ちゃんは不満そうに言いました。
 「ううん、椎茸や人参もいっしょにてんぷらにしようね。それとおうどん、それとお刺身」
 「それだけ?」
 「それだけって、美鈴はフキノトウが嫌いかい?」
 「うん、あんまり好きじゃない。だって道端に生えている草なんでしょう?」
 「このフキノトウはお隣のおばあちゃんが植付けたんだよ。一昨年まではおばあちゃんが摘んでいたんだよ。それを、おすそわけで頂いていたの。おばあちゃんが一昨年老人施設に入ちゃったから、誰もフキノトウを摘む人がいなくなったの。だからおかあさんが摘んできたんだよ。おばあちゃんが丹精をこめて育てたんだから、無駄にしたらもったいないでしょう」と、おかあさんはしみじみとした感じで言いました。
 お隣のおばあちゃんは息子さんと2人暮らしをしていましたが、一昨年の冬に急に施設に入ってしまいました。
 おばあちゃんは元々足が悪かったのです。
 それで、だんだん弱っていき、とうとう家事が出来なくなったから仕方なく施設に入ったのだと、おかあさんは言っています。
 おかあさんは、2度お見舞いに行きました。
 2度目に行った時、おばあちゃんは、もう何もしゃべらなかったそうです。おかあさんは、自分が誰だか分かってもらえなかったとがっかりしていました。
 ただ、入所している他のおじいちゃんやおばあちゃんが次々に寄ってきて、
 「あんた、この人の娘さんだろう、連れて帰るのかい?」と羨ましそうに、聞いてきたそうです。
 おかあさんは、なんだかとてもせつなかったそうです。

 その夜、食卓には若草色のフキノトウのてんぷらが並びました。
 美鈴ちゃんは、おばあちゃんのことを思い出しながら口に入れました。
 外はパリッと、中はモチッとした歯触りでした。でも最後にやはり、お口の中に、ちょっと痛苦いような味が広がりました。
 美鈴ちゃんは、おばあちゃんを思いながら食べたので、それがとても切ない味に思えました。
 おかあさんは、美味しそうに頬張りながら、
「これを食べると春がきたなあと思うわねえ」と言いました。
                      お わ り


posted by hidamari at 23:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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