2008年05月12日

小説・測量士の恋

15
 真佐子が病室へ訪ねてきた時、最初はてっきり部屋を間違えたのだと思った。
 彼女は花束を持っていきなり「こんにちは、具合はどうですか」と言って、部屋へ入ってきた。
 光は、真佐子のことをまんざら知らない訳ではなかった。なにしろ毎日のようにお弁当を買いに行っているので、自然に顔だけは覚えてしまったのだ。ただそれだけのことだった。光を見舞いに来るとは思えなかった。
 「ああ、君はコンビニの…、どなたか入院しておられるのですか?」
 よく確かめもせずに他人の部屋へ入ってくる無神経さに、あまりいい気はしなかったが、よくあることだと諦めて、大目に見て穏やかに対応した。
 「いいえ、星野さんのお見舞いに…。突然でごめんなさい」
 「えっ!俺の…、でも何で」
 「あなたが最近お弁当を買いにいらっしゃらないので、気になっていたの。それで工事現場の人が買物にいらっしゃった時に、思い切ってお聞きしたの。星野さんはどうなさったのですかって。ああーあなたのお名前は作業服にネームが入っているでしょう。だから前から知っていたんです」
 「そうですか。それはどうも」
 光は頭の中で(これはいったいどういうことだろう。個人的に話したことはないし、こちらは彼女の名前も知らないのだ。名札をしているのかもしれないが、気を付けて見ていないので記憶がない。でも、彼女は俺のことをずっと気に掛けていたというのか)などと瞬間的に思いを巡らした。
 それにしても、どういう顔をすればいいのだ。
 ただ、悪い気はしなかった。いや、ちょっと嬉しかった。それが彼女を初めて意識して見た第1印象だった。16へ

(上記は、カテゴリー児童短編小説・つぶらなひとみ〈測量士の恋〉で連載中)

posted by hidamari at 22:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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