2008年06月12日

 蘇る思い出
 20代後半の頃だからずいぶん昔のことです
 子育てと仕事で私は常に疲れていました
 しかも車もなくバス通勤でした
 その日も 仕事を終え 夕食の買物をしてバスに乗りました
 折しも梅雨
 宵闇迫る夕暮れの町に いつの間にか雨が降り出していました
 傘がなかった私は バスから降りると濡れて帰るしかなかったのです
 するとスーッと後から傘を差しかけてくれる人がいました
 見るとハンサムな詰襟姿の高校生でした
 しかも彼は地域の病院の息子さん
 普段は会っても挨拶もしたことがありません
 それほど遠い存在の男の子でした
 「同じ方向ですからどうぞ入って下さい」
 「えっ!いいんですか?すみません」
 「……」
 「それじゃあ ここでけっこうです 有難う」
 しゃべったのはたったそれだけ
 
 ほんの2〜300mの距離だったのに とても長く感じられました
 彼の肩が濡れているのが申訳なくて
 濡れて帰る方がよっぽど楽でした
 常々無口そうだったし
 俗世間に何の興味もなさそうだった男の子
 疲れた年上の冴えない私
 思わぬ彼の親切に本当に戸惑いました
 同時になぜか胸が躍ったのです
 彼がしてくれたことは 単に咄嗟に出た行動だったのでしょう
 それでも嬉しかったのです
 生活に疲れていた私は どんなに元気を貰ったことでしょう

 彼はその後お父さんの後を継いでお医者さんになりました
 あれ以来1回も口を聞いたことはありません
 それなのに
 あの日のことは未だに心の中に残っているのです
 特に今日のように雨の日は
 スーッと傘を差しかけてくれたあの日
 紅顔の美少年だった彼の親切が蘇るのです
 
 
 
posted by hidamari at 23:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩歌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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