2008年07月07日

小説・目障りな女

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 そんなことがあってからは、百合子は目に見えて生彩を失くしていった。少なくとも奈緒の前ではそうだった。総務課に行く度に耳に入った、これ見よがしの百合子の喋り声が聞えなくなった。
 奈緒はそれで満足だった。これ以上百合子にはかかわるまいと思った。もともと奈緒の知らない所まで関与するつもりはないのだ。
 ところが、百合子はその後、長年勤めた会社を退社したのである。
 それは突然のように見えたが、彼女にとっては予定通りの行動だったのかもしれない。いや、もしかしたら、奈緒の存在が、彼女にとっても目障りになったのかもしれない。
 とにかく、奈緒にとっては、ヘドが出るほど嫌いだった百合子が、目の前から消えていった。
 それは、飛び上がりたいほど喜ばしくて、ホッとすることだった。
 奈緒は百合子の退社を夫に知らせた。
 「山本百合子、退社したよ」
 「そー、年齢も年齢だし、でっかい持ち家もあるし、ここらで子育てに専念するんじゃないの。いい選択だよ」と、言った。
 正也は素直にそう思ったのだろう。彼女にもう何の執着もないのは分かっていた。それなのに、
 「へー、でっかい家なんだ、何でもよく知っているのね」と、つい皮肉を言ってしまった。
 過去のことを悪びれる風でもなく、さらーと受け応える正也が、奈緒にはやはり腹立たしいのだ。
 「そ、それはずっと以前から知っていたことだ」と、正也はあわてて弁解した。
 こうなると、何を言われてもますます腹がたつことは、奈緒に分かっていた。
 このことで蒸し返すのは止めようと決心しているのだ。もう百合子のことは何も言わないし、何も話題にするまい。
 時間がたてば、何もかも忘れてしまうだろう。
 正也とうまくやっていくためには、いやなことは全て忘れることしかないのはよく分かっている。
 目障りな女はもういない。
                      了

(「小説・目障りな女」は今回で終了しました)
posted by hidamari at 23:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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