2008年08月07日

小説・間口

bV
 100ヵ日の法要を終え、一段落すると、陸はとりあえず自宅を出て賃貸マンションに居を構えた。考えてみれば1人暮らしは初めてのことだった。
 もうすぐ40歳になろうという年齢だからこそ、1人暮らしは心細く、将来がひどく不安になる陸だった。
 家族写真のくったくのない笑顔は夢のまた夢なのだと思いながらも、写真に向かってつい語りかけるのが日課になった。
 しかし、陸はいつまでも沈んではいなかった。
 もう誰に気を使うことはない、自由に生きていこうと心に決めたのである。
 決して今までが不自由だったというわけではないが、やはりどこかに母親の存在があった。常に、母を悲しませるようなことはしてはいけない、母あっての私だ、という気持ちだったことは確かだった。
 陸は寂しさと同時に、身体を締め付けていたガードルを外したような開放感を味わっていた。
 今までは、何かといえば、飲みにいこうと誘ってくる係長の本間悟が、とても、うざったい存在だった。
 それは、彼が妻帯者だったことが、無意識に陸の心を縛っていたのだろう。初めから結婚相手にふさわしくない人とは、無駄な時間を過ごしたくなかっただけのことだった。
 しかし、母親の葬儀前後の雑事に関して、本間は親身になってサポートしてくれた。あり難かった。今までの自分のつれない態度を後悔した。
 よく見れば、本間は顔もなかなかハンサムだったし、何より優しく頼りがいがあった。
 今度飲みに誘われることがあったら、OKしようと、陸は密かに心に決めていた。bWへ

(上記小説は、カテゴリー{短編小説・つぶらなひとみ}の中の、小説・間口で連載中)

posted by hidamari at 22:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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