2008年08月19日

小説・間口

bP1
 お正月が明けると学生課はがぜん忙しくなる。
 新入生の入学試験、在学生の後期試験、卒業式、入学式と大学の主な行事が目白押しなのである。
 陸は毎日殆んど残業だった。何も今年に限ったことではない。この時期忙しいのが大学事務局の宿命だった。そのかわり、夏休みはゆっくり出来るのである。長年この繰り返しに慣れっこにになっている陸は、このことは別に何も苦ではなかった。
 特に今年は、母のいない自宅で、1人で食べる夕食より、学生課の職員が集って食べる残業捕食の方がどれほど楽しかったことか。
 それに帰りは、自宅が同じ方向だからと言って、マイカー通勤である本間が送ってくれた。終電に間に合わない場合、大学からタクシーチケットが配付されるが、経費節減にもなるといって、本間自ら申し出てくれたのだった。
 考えて見ると確かに新しいマンションは本間の家と同じ方向にあった。
 今までの陸なら、たとえ経費節減のためとは言われても、決して夜遅く、上司とはいえ妻帯者の車に乗るなど考えられないことだった。
 しかし、今の陸は昨年までの陸ではなかった。
 母親の死が、その固い考えの殻を打ち破ってくれたのである。破ってしまえば何と身軽で生き易いことか。すっかり陸をとりまく人々や世界まで変わって見えたのである。bP2へ

(上記小説は、カテゴリー{短編小説・つぶらなひとみ}の中の、小説・間口で連載中)

posted by hidamari at 22:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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