2008年08月22日

小説・間口

bP2
 その日は金曜日だった。仕事のけりがついたのは10時をまわっていた。いつものように陸は本間の車に便乗していた。
 「いつも只で乗せてもらって申し訳ないですね。何かお礼をしなくてはならないのでしょうね」
タクシーチケットで帰ればこんな気兼ねはいらないのにと思いながらも、やはり本間の親切は日頃から感謝していたので、ふっと出たことばだった。
 「そんな心配いらないよ、どうせついでなんだから…」
 「すみません」
 「それより、どうー、新居の住み心地は…、部屋見てみたいなあー」
 「ああーいいですよぉー、ちょっと寄っていかれませんか?」
 「ほんと!嬉しいな」
 それは、ほんとに自然の流れだった。
 マンションを買うのにあれほど親身になってくれながら、本間は、陸が引っ越してきてから、1度もマンションを訪れたことはない。
 今までになぜこういうことにならなかったのか、不思議なことだった。
 お互いに意識して避けていたような気もする。
 また、残業でくたくたに疲れていると、会話するのも億劫になる。
 それに、打ち解ける間もなく到着してしまうくらいの近い距離に陸のマンションがあったことにもよるだろう。
 今夜は仕事が一段落してほっとしたこともあった。明日が土曜日でお休みということもあった。
 しかし、陸は最初から用意して誘った訳ではなかった。
 ほんとにとっさに出たことばだった。
 それだけ陸は柔軟な気持を持つ女性に変わったというべきだろう。bP3へ

(上記小説は、カテゴリー{短編小説・つぶらなひとみ}の中の、小説・間口で連載中)

posted by hidamari at 23:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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