2008年09月01日

小説・間口

15
 コーヒーを飲むと、本当にスーと心が落ち着いた。
 陸がカップを応接台に戻すと、待っていたかのように、本間は陸の手を握った。
 「ずっと好きだったんだ」と言うと、今度は陸の背中に手を廻した。
 陸は本間のことを恋焦がれていたわけではなかった。ただこういう場面になることは、本間を部屋に上げた時点で予想していた。その通りになっていることを、頭の中で冷静に受け止めていた。
 いいのだ、私はこれを望んでいたのだから。
 何もなくて悩むより、女性として何かあって悩む方がまだいい、と思ったからだった。
 「私もよ」と、口先だけのことばで返した。
 本間はそのことばを聞くと、血走った目と荒い息づかいで、陸を抱き寄せ、キスをし、胸を触った。
 陸は本間が成す一つ一つの動作が単なる儀式にしか、感じなかった。
 男性に触られるのは過去何回かあったが、そのどの時よりも感動はなかった。
 ただ、本間の方は異常に興奮していた。その証拠に身体が小刻みに震えていた。
 「いいのか?俺、結婚しているから、君とは結婚できないけど」
 今までの陸なら、こんな勝手なことを言われてまで、ことに達することなどあり得ない話だった。
 しかし、
 「何よそれ、何も今そんなこと言わなくても…、意地悪ね!」
 と、甘えるように言うと、自ら身体を本間に預けにいったのである。
 陸は今、かたくなな考えを、完全に打ち捨てた。
 そしてここから、軽い女に変身していったのである。16へ

(上記小説は、カテゴリー{短編小説・つぶらなひとみ}の中の、小説・間口で連載中)
posted by hidamari at 23:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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