2008年09月09日

小説・間口

18
 陸は大学全体の職員懇親会の活動に全く興味がなかった。
 懇親会は、1年に1回忘年会を兼ねて海外旅行をするのが慣例になっていた。
 即ち、海外旅行のツアーを作るために必要だったので、この会を作っているようなものだった。
 陸は今までに、この海外旅行に1度も参加したことがない。
 まず全員参加すると、人数が多すぎて収拾がつかないのは当然のことである。
 よく出来たもので誰も何も言わなくても、毎年参加者は、全体の1/3程度である。それゆえ、スムーズにいくというものだった。
 今回は事務局代表幹事が、陸の当番だった。陸はやむを得ず幹事会に出席した。その時、教養学部の代表幹事として出席していた大林と、偶然、席が隣り合わせだったのだ。   
 そこで、2人は何となく会話をするようになったのである。
 話してみると、大林はそれほど高慢な態度ではなく、むしろフレンドリーな感じで、とても好感が持てるものだった。
 それはきっと、大林自身が、先生らしからぬ、異質な存在だったのかもしれない。彼はごく普通の常識的な感覚の持ち主だった。
 なにより大林に心を許すようになったのは、向いている方向や、物事に対する考えに、陸と相通じるものがあったことだった。
 それは、旅行先やテーマを決める時も、ことごとく、意見が一致した。
 もしかして、大林が意図的に陸に合わせているのではないかと思うほど、2人は意見が一致したのである。
 こんなことが続くうちに、陸は大林を意識するようになっていった。きっと大林も、自分のことを憎からず思っているのではないかと、思うようになっていったのである。
 しかし、よく考えると、それは大それた考えだった。
 なぜなら、大林は結婚していたし子供もいた。それに、元々、大林は、陸には夢にも考えられない程、雲の上の男性だった。
 スターと1ファンという程の隔たりだったのに、こんなに近しく話すことが出来るとは。それは夢のようにワクワクすることだったのである。19へ

(上記小説は、カテゴリー{短編小説・つぶらなひとみ}の中の、小説・間口で連載中)

posted by hidamari at 23:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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