2008年09月11日

小説・間口

19
 さだまさしコンサートのチケットをもらったのは、ちょうどその頃だった。
 お昼休み、学生課内には職員は出払っていて、陸1人が留守番をしていた。
 この時間はひっきりなしに学生が訪れる。その応対は当番の職員が窓口で当ることになっている。そのため、部屋の中は空っぽでも、別に差し障りはないのだが、誰もいなくなった部屋を出ていくのはやはり抵抗がある。暗黙の了解で最後に残された人が留守番をする羽目になるのだ。
 陸は、今日もまた皆に遅れを取ってしまって1人残されてしまったのだ。仕方なく自分のデスクで、何をするでもなくただぼんやり座っていた。
 「室田さん、居たんだ。よかった」
と、言いながら、大林が部屋へ入ってきた時、陸は飛び上がらんばかりに驚いた。
 「ああー、びっくりした!」
 「居眠りしていたでしょう」
 「先生!こんにちは、ええ、ぼんやりしていました」
 「君、さだまさし好き?コンサートへ行かない?」
 陸は驚いた。不意を突かれたこともあるが、掛け値なしにさだまさしのファンだったからだ。
 コンサートがあることは知っていた。既に3年前にも行っている。母も好きだったので2人で行ったのである。
 今回も行きたいという思いは十分あった。ただ、1人で行くのがイヤだったので躊躇していたのだ。友人を誘うのもはばかれた。さだまさしを好きな人が周りにはいないし、誘っても古臭いと言われるのが関の山だったから。
 「ええっ?どういうことですか?」
 「いや、君が好きなら一緒に行きたいと思って」
 「ほんとうですか、嬉しいです。私、行きたかったの」
 「よかった。じゃあ、チケット1枚渡しとくよ」
 大林はそういうと、ポケットから封筒を出して机の上に置いた。20へ

(上記小説は、カテゴリー{短編小説・つぶらなひとみ}の中の、小説・間口で連載中)
posted by hidamari at 22:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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