2008年10月02日

小説・間口

27
 すると、本当に聞えなかったと思ったのか、
 「室田さんは、海外旅行とかされるんでしょうね」
 と、改めて問い直してきた。
 しおりは決して陸をからかっているわけではないのだ。
 陸ぐらいの年齢になると、給料も高額なことは職員同士では分かっている。よってお金はあるだろう。しかも独身貴族である。今年はめったにない7連休ときている。
 こんなに条件が揃っているなら、海外旅行もあるだろう、と考えるのは当然である。
 現に陸は過去には何度となく海外旅行を経験している。
 軽い気持で聞いてくるしおりを疎んじることなど、今までの陸なら考えられないことである。
 しかし、今日の陸は、しおりのその何でもない物言いが無性に癇に障った。
 無視したかったが、そうすればさらにしつこく聞いてきそうな気がした。
 思わず口から出てしまった。
 「休みの過ごし方、貴方に報告しなければならないかしら」
 思わぬ陸の刺のある言い方に、しおりは一瞬キョトンとしたが、
 「す、すみません」
 反射的に謝っていた。
 陸の意外な一面に触れた気がした。
 彼女はきっと今満たされていないのだと、直感的にしおりはそう思った。28へ

(上記小説は、カテゴリー{短編小説・つぶらなひとみ}の中の、小説・間口で連載中)

posted by hidamari at 23:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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