2008年11月18日

小説・父親の役目

13
 勇作は手術から2日後意識を回復した。しかし、もはや口はきけなかったし、目もうつろで、自分の身体中にささっている管を1日中ぼんやりと眺めていた。
 医者に言わせると、まだ2〜3週間は再出血の恐れがあるから危険な状態は続くとのことだった。
 東京から優太郎もかけつけ、1週間実家に滞在し、勇作の様態を見守った。その間、美代子は3日だけ嫁家の台所に立ち家族の食事を作った。それだけでも美代子にとっては相当なストレスだった。ほんとうは毎日行って、病人にかかりっきりのヒデに代わり、家事を手伝わなければならないことは分かっていた。でも4日目、身体がいうことをきかなかった。拒否反応を起すのである。朝起きると、頭痛と吐き気が襲ってきた。秀男はどこに泊まるのか、勇作が倒れてから、自宅へは戻っていなかった。
 美代子は何もかも腹がたった。その日から、2度と病院へも嫁家へも顔を出さなかった。
 元のカステラ屋のパートに精を出す毎日に戻ったのである。
 小百合は小学校6年生、賢は4年生だった。
 2人は、時々病院へ顔を出しているようだったが、美代子には何も言わなかった。秀男もその後、時々着替えを取りに帰ってはくるが、子供たちと2〜3言話すと、いつの間にか消えているという状態だった。
 美代子に対して、誰も文句を言う風でもなかった。美代子はそれがほっとすることでもあったが、寂しいことでもあった。
 この頃から秀男と美代子は、コミュニケーションを全くもたない夫婦になっていたのである。14へ

(上記小説は、カテゴリー{短編小説・つぶらなひとみ}の中の、小説・父親の役目で連載中)

posted by hidamari at 22:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック