2008年11月24日

小説・父親の役目

15
 勇作の様態は一応小康状態を保っていた。ただ相変わらず話しができる状態ではなかったし、身体を動かせる状態でもなかった。1日中管を通して寝ているばかりだった。
 元気な時は喧嘩ばかりしていた夫婦だったが、ヒデは毎日病院に通って、何くれとなく病人の世話をした。
 秀男は、どんなに遅くなっても、仕事の帰りに病院へ寄り、ちょっとの間でも看護を代わってやった。
 秀男にはそれが都合のいいこともあった。
彼にはもう2年も付き合っている白井織江という女性がいた。
 織江は小料理屋を自分で切り盛りしていた。元々母親がやっていたお店だったが、5年前に母親が亡くなってから、そのままママとしておさまったのである。
 秀男は先代のママの時代から通っていた。その頃、織江はまだ20代で保険会社に勤めていて、時々手伝いにくる程度だった。綺麗な娘だったので客に人気があったが、秀男は美人が苦手だったので織江のことが気になることもなかった。
 ただ、長年ずっと通い続けているのは秀男くらいだろう。
 秀男はお酒が好きだった。お酒と食べ物が美味しい織江の店が気に入っていただけだった。友人との付き合いで、よそのお店で飲んでも、帰りには1人で必ず織江の店へ寄るのが習慣になっていたのだ。
 保険会社を辞めてママになったのは織江が28歳のときだったが、いつの間にか33歳になっていた。秀男とは4歳違いである。
 秀男と織江が結ばれたのは、これもまた酒の上だった。とはいっても、その頃秀男と織江は十分気心が知れた仲だった。織江には以前勤めていた保険会社に恋人がいたが、その彼から別れ話が持ち出されていた。
 お店を畳んで結婚するか、別れるかを決断しかねている織江に、秀男は、躊躇なくお店を続けて欲しいと言った。しかも、自分が力になるとまで言った。秀男はいつの間にか織江を深く愛していたのだった。心の奥で決心していたのかもしれない。
 それから、秀男はちょくちょく織江の店へ泊まるようになっていた。織江の住いはお店の二階にあった。
 勇作が入院している間、実家に泊まるふりをして、秀男は、毎晩織江の住いに泊まっていたのである。16へ

(上記小説は、カテゴリー{短編小説・つぶらなひとみ}の中の、小説・父親の役目で連載中)

posted by hidamari at 22:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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